当歳から1歳にかけての厳冬期の管理について(生産)

2月に入り、生産地はまさに分娩シーズンに突入したところです。ここ日高育成牧場でも、今月下旬に2頭のホームブレッドの出生を予定しております(今年全体で8頭生まれる予定です)。JRAで行っている分娩前後の対応につきましては、昨年の本ブログにて紹介しておりますので、ぜひ参考にしていただけましたら幸いです。

   

  

 「日高育成牧場での分娩前後の対応」

 http://blog.jra.jp/ikusei/2011/05/post-d30d.html

    

  

  【写真1】 放牧中の1歳馬(雪が深い時は重機で道を作っています)

  

 さて、ここ日高育成牧場では明け1歳馬を昨年11月から【昼夜放牧群】【昼放牧+WM群】の2群にわけ管理をしてきました(写真1)。この研究は昨シーズンから始めたものですが、昨シーズンと比較すると気温は今シーズンの方が低かったものの、体重増加は今シーズンの方が良いという結果となりました(グラフ)。種牡馬の違いからくる成長カーブの違いの影響があるかもしれませんし、単純には比較できませんが、この結果から「厳冬期に成長が停滞するのは、単純に気温の低さのみが影響しているわけではないこと」とは言えそうです。現在測定中の血中ホルモン濃度の値などの他のデータが出揃いましたら、順次発表していきたいと思います。

注)グラフにて11月下旬に【昼放牧+WM群】の体重が大きく減少しているのは、それまで昼夜放牧していたのを昼放牧に切り替えたので青草の採食量が減少したためです。すなわち「腸管の内容物」の量の変化で、馬自体の変化ではありません。

  

    

  

  【グラフ】 厳冬期の体重および気温

   

 今シーズンは2年目ということで、昨シーズンから改良した点をご紹介したいと思います。まず、昨シーズンは分娩間近の繁殖牝馬を分娩馬房へ移動する関係上、調査の途中で放牧地および厩舎を変更いたしましたが、今シーズンはストレスの軽減を考慮し調査期間中は放牧地および厩舎の変更は行いませんでした。また、昨シーズンは移動前の放牧地には屋根付きの立派な「風除け」が設置されておりましたが、移動後の放牧地には設置されていませんでした。そこで、今シーズンはベニヤ板で簡易の「風除け」を設置し、その付近には食料兼敷料として「ラップ乾草(低水分ラップサイレージ)」を敷き詰め、子馬が悪天候時に休息できるスペースとしました(写真2)。GPSを用いた行動観察の結果、日によりますが夜中の5~6時間をこのスペースで過ごしていることがわかり、ひょっとしたら今シーズンの順調な体重増加につながったのかもしれません。ちなみに雪で覆われてしまうと馬が寝られなくなるため乾草を追加し、また小まめにボロを拾うなど、子馬にとって常に「快適な寝床」となるよう注意を払いました。

  

       

  【写真2】 昼夜放牧群の放牧地に設置した風除け

     

  

  【写真3】 このように雪で覆われてしまうと馬が寝られなくなるため乾草を追加します

    

 

そのほか、これは昨シーズンから行っていることですが、放牧地の四隅にルーサン乾草を撒いて馬の自発的な運動を促したり、雪が積もって馬が歩き回れない状態になった際は重機で道を作って歩きやすいようにしたり、放牧地内の凍結した箇所には融雪材(塩化カルシウム)入りの砂を撒いて滑らないようにしたり、工夫しています。飼料に関して言えば、「繊維分を腸管内で発酵する際に生じる熱が体温維持に重要である」という理論から、濃厚飼料よりも粗飼料を多く採食させることを強く意識し、通常の乾草よりも嗜好性の良い「ラップ乾草(低水分ラップサイレージ)」を与え、さらに繊維分の豊富なビートパルプを給餌しています。また、単純に体重増加させたいのであれば燕麦などの濃厚飼料を多給すれば良さそうですが、馬体が成長していないのに体重だけが増加している状態というのはすなわち単なる「肥満」ですから、そうならないように毎日ボディコンディションスコアをチェックし、さらに定期的に臀部の脂肪の厚さを測定し(体脂肪率が推定できる)、モニタリングしています。

 この当歳から1歳にかけての厳冬期の管理についての調査の結果につきましては、現在測定中のデータが出揃い次第、本ブログやその他の講習会などでご披露していきたいと思っております。今後もJRA日高育成牧場の調査・研究にご注目していただけましたら幸いです。