育成馬ブログ 宮崎⑦

○強調教後の乳酸値測定(宮崎)

 

3月に入り、まだまだ朝は肌寒く感じる日もありますが、

日中は春を感じる日が多くなってきた宮崎です。

 

さて、3月は卒業式など別れの季節というイメージがありますが、

JRAでも人事異動が行われ、スタッフの入れ替えが行われました。

宮崎から北海道に旅立つ者、一方、北海道から宮崎に赴任する者もおり、

それぞれ新しい職場での活躍が期待されます。

 

新しいメンバーも加わりました宮崎育成牧場ですが、

これまで同様に、スタッフ一丸となって育成馬の管理に励んでいきたいと思います。

 

季節の変化に敏感な育成馬達は毛艶に輝きが増し、

調教中の動きも俊敏さが目立つようになってきており、

我々以上に春の訪れを喜んでいるかのように映ります。

 

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写真① 調教後、牡はサンシャインパドック(左)、牝は放牧地(右)に放牧しています。

牝の放牧地では青草が生い茂ってきており、春を感じさせます。

 

 

育成馬の近況

 

さて、宮崎育成牧場のJRA育成馬22頭は、

4月26日(火)にJRA中山競馬場で開催されるブリーズアップセールに向けて

調教メニューをこなしています。

 

500mトラック馬場では、速歩2周の後、直線はキャンター、

コーナーは速歩という調教を左右両手前で2周ずつ実施しています。

 

500mトラック馬場での調教は、

ウォーミングアップとしての目的があることはもちろん、

スピード調教を繰り返していくと、

ハミにかかる傾向が強くなるのを改善する目的もあるため、

ハミを必要以上に取らずに、

馬自身のバランスで走行させることを主眼に置いて実施しています。

 

一方、調教のベースとなる1600m馬場では、

4頭単位の1列縦隊で

ハロン22~20秒のイーブンペースでの

2400~3000mのステディキャンターを基本調教としています。

 

週1~2回のスピード調教では、

1200mを2本走行させるインターバルトレーニングを実施し、

2本目に3ハロンを45~48秒(ハロン15~16秒)程度で走行しています。

 

 
YouTube: 【動画】15 16育成馬日誌宮崎⑦

動画 2月下旬の調教動画。

   

 

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写真② 週1回実施している牡馬の強調教時の様子。

内:上場番号13番フラワーパフュームの14(牡 父:シンボリクリスエス)、

外:上場番号62番エイシンブランディの14(牡 父:ヴァーミリアン)。

 

強調教後の乳酸値測定

 

ここからは、宮崎育成牧場で実施している

「強調教後の乳酸値測定」について触れてみたいと思います。

 

乳酸値は運動強度(速度、距離あるいは運動持続時間など)を上げていくと、

上昇していきます。

これは

「速筋線維が糖を分解することによって乳酸を生成するためであり、

またアドレナリンのような糖利用を高めるホルモンが放出されるため」

といわれています。

 

一方、乳酸値は最初から直線的に上昇するのではなく、

ある運動強度を超えた時点(LT:乳酸性作業閾値)から急速に上昇していきます。

これは

「運動時の酸素需要量と供給量のバランスが維持されていれば

乳酸は蓄積されず、需要供給のバランスが崩れると上昇していく」

という性質によるものです。

 

調教が進むと同じ運動強度でも、乳酸値が上昇しなくなります。

この理由は、有酸素運動能が高まり、

同じ運動強度でも糖を利用する無酸素性エネルギーを利用しないで

走行できるようになるためです。

 

「乳酸」という言葉から「疲労物質」という言葉を連想する方が多いと思われます。

つまり、単純に「乳酸値が高い」=「過負荷」と結びつけてしまう傾向があります。

 

この考え方は正しいと思われる反面、

アスリートにおいては、乳酸を多く出せるということは、

それだけ筋肉が糖を利用して、エネルギーを作り出す能力が高い、

つまり絶対的なスピードに優れているという見方もあるようです。

 

過去の育成馬の乳酸値と競走成績を照らし合わせてみると、

この考え方は競走馬にも当てはまるように思われます。

つまり、育成期においては、まず乳酸を多く産生できる負荷をかけること、

すなわち、筋肉に糖を最大限に利用させることが

レーニングの第一歩であると考えられます。

 

その後、さらに調教が進むと、同じ負荷をかけた場合には、

長距離競走に適した馬では、乳酸値の上昇は抑えられるのに対して、

短距離競走に適した馬では、乳酸値が上昇しやすい傾向があります。

 

これらのことは、

長距離適性の高い馬は、蓄積した乳酸を再びエネルギーとして利用できる

「乳酸処理能」

を高めることができる能力がある一方で、

短距離適性の高い馬は乳酸が溜まった状態でもさらに運動を継続できる

「耐乳酸能」

を高めることができる能力があると考えられるのではないかと思われます。

 

乳酸値の測定など、科学的指標に頼ることによって客観性は高まる一方で、

データへの興味が高まることによって

機械的に調教メニューを立ててしまう状況に陥りやすく、

馬の状態を省みない状況を生み出す過ちを犯しがちになります。

そのため、常に走行時や走行後の息遣いのみならず、

特に牝馬ではメンタル面を確認しながら、

各馬に応じた負荷をかけるよう慎重に検討しております。

 

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写真③ 乳酸値測定に使用している簡易キッド(ラクテート・プロ2:アークレイ社製)。

本体価格は約6万円、1回の測定にかかる経費は約220円です。