育成馬ブログ 生産編⑧(その1)

「感染性子宮内膜炎」について

 

○ハグヤード馬医療機関の検査室

 

前回に引き続き、「感染性子宮内膜炎」についてお話しいたします。

今回は米国での臨床現場での現状をご紹介します。

世界最大の馬産地として有名なケンタッキーには

ハグヤード馬医療機関(Hagyard Equine Medical Institute、図1)と

ルードアンドリドル馬病院(Rood and Riddle Equine Hospital)という

二つの大きな病院があり、それぞれに約40名もの獣医師が所属し、

生産頭数約12,000頭と言われるこの地域の獣医療を担っています。

 

内科、外科、往診、繁殖、跛行診断の各診療科が整備されているほか、

どちらの病院にも検査室(Laboratory)が併設され、

所属する臨床獣医師のほか周辺の開業獣医師も利用することが

できるようになっています。

この検査室に子宮内スワブもしくは子宮洗浄液のサンプルを提出すると、

1時間程度で速報としてサンプル内の細菌の有無

そして細菌が検出された場合グラム陽性菌か陰性菌かが

獣医師のスマートフォンに送られてきます。

さらに概ね24時間後には細菌培養検査および

薬剤感受性試験の結果が送られてくる仕組みになっていました。

これは臨床家にとっては非常に有用なシステムで、

獣医師は送られてきた結果をもとに適切な抗菌薬を選択することができます。

 

Photo_2図1 ハグヤード馬医療機関の見取図(Google Earthに加筆)

 

○感染性子宮内膜炎の原因菌(ケンタッキーでの調査)

 

さて、そのハグヤード馬医療機関で行われた検査で検出された細菌の内訳は

どのようなものだったのでしょうか。

2014年に採材された6,947件の子宮内スワブおよび

子宮洗浄液のサンプルを用いた調査では、検出された細菌の内訳は、

β溶血性連鎖球菌(beta Streptococcus species)が42.2%、

大腸菌(Escherichia coli)が22.1%、

シュードモナス属(Pseudomonas aeruginosaおよびP. putida)が8.9%、

ブドウ球菌(Staphylococcus species)が6.7%、

エンテロバクター属(Enterobacter cloacaeおよびE. aerogenes)5.1%、

肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)が4.4%、

α溶血性連鎖球菌(alpha Streptococcus species)が2.8%、

その他の細菌が7.5%でした(図2)。

 

 

Photo_3図2 検出された細菌の内訳(ハグヤードの患者向け資料を改変)

 

(つづく)